貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
「……いわ」
「え」
純の戦慄した口舌を、乙愛の耳が拾い損ねた。
乙愛の上体に純の腕が絡みつく。乙愛のドレスと純のそれが重なって、白の濃淡が煌めいていた。
「似ているわ、貴女と私」
歌っている時にも通じる、純の声だ。
「私にも、命より大事な人がいたの」
「──……」
「彼女は、私の夢だった。彼女が世界の全てだったわ」
「純様」
「乙愛にそっくりな、愛らしくて純粋な人」
愛おしむように、純が乙愛の背中をさする。
魂を賭して作られた、大切なドールを愛でるような指先だ。乙愛を、とても優しく撫でている。
純の大切だった人が、本当に乙愛に似ていたとする。
彼女の影を、乙愛に重ねているのだろうか。二日前、暗いお化け屋敷での時同様。
「だから、貴女にアドバイス出来ない」
「…………」
「貴女にだけ振り切れだなんて言っては、酷い話でしょう」
「あたし……」
「生きることを、やめたくなった。彼女と離れて、その先どうしていれば良いか、分からなくなったわ」
二人の間に釁隙はない。純の表情は確かめられない。確かめれなくても、純の声音は、辛そうで、溢れんばかりの酷愛が染み透る。
「けれど、おかしなものね」
そっと身体が引き離された。
「死にたいとは思わなかったの」
「──……」
「初めは止めてくれた人がいたから。一度機会を逃すと、どうしてか死ぬ理由を失って、やるべきことがあると思ったわ。ぼんやりと」
乙愛を見澄ます純は、やはり綺麗だ。
奇跡のように、綺麗だ。