貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
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闇とまぐわう藍の降りた宿泊区画は、さしずめ捨て置かれた玩具箱だ。
清楚な屋根のコテージまでは、ハート型のレンガが続く。屋根と同じ白いビスケット扉を開けば、そこはリアルな童話の世界。
この一軒も例に漏れない。
異質なのは、眠りを知らないコルボックルらの嘲笑う軒先を離れた最奥、銀古美のノブをひねった先の寝室に、たとしえない芳香がむせ返っていることだ。
甘い、魅惑的な薔薇の匂いは、いっそ殺傷的と言えよう。
部屋いっぱいに、純潔の花が横溢していた。
一見、白以外の色彩が存在しないと見えるほど。…………
ソファに、少女が一人、座っていた。
否、人形か。
人形は、息一つせず、身じろぎもしない。生花やポプリ、ブリザードフラワーが、肢体の大部分を覆っていた。
ピンク色の混じった亜麻色の巻き毛を肩に流した人形は、ミルクに溶かした果実と空色のジャンパースカートでめかしこんでいた。ピンク色のストライプが入った白いブラウスを合わせており、肩にティーカップ型のポシェットをかけている。
頬に、生気を感じさせる薄紅が、淡く浮かんでいた。まるでたった今まで生きてでもいた人間だ。首筋や腕、腿も、見るからに少女らしい質感を主張している。
もっとも、いかにしてもそれは人形だ。
灰色を帯びたエメラルドグリーンの双眸は、塵ほどの感情も現さない。
少女は、この薔薇尽くしの現実世界と楽園の狭間に浮かんだ部屋を見ているようで、まるで見ていない。
あまねくものを受け入れない、ガラスの眼球。無垢に閉ざされた少女から、白い薔薇が香っていた。