貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
旅の空の下にいても、隙間時間を見付けては、あずなはドクイチゴの作業をしている。乙愛に着せた一式も、仕上げたばかりの出来立てだった。
乙愛を意識して作った。
以前から、あずなの中で、乙愛の存在感は大きかった。
あずなの頭に真っ先に浮かぶ、ドクイチゴのリピーター。文月乙愛以外にないからだ。
乙愛を実際に見ている内に、あずなはインスピレーションを得た。今作らなければならない気がした。
かくて二日目の夜、あずなは新作の製作にかかった。乙愛と夕飯を共にして、彼女が部屋に帰ったあとすぐのことだ。
「お洋服、乙愛ちゃん可愛かったわね」
あずなは、里沙の携帯電話に送ったのと同じ写メを、手許に開いた。
「お人形さんみたい」
「シンデレラの魔法かしら」
「そうかも。神無月さんっていう王子様に、乙愛ちゃん会いに行った」
「それもそうだけれどね。昨夜のあずなは、乙愛ちゃんの妖精だった」
里沙があずなに向けた目は、神妙だ。
まっすぐにあずなを見つめる里沙の眼差し。その眼差しが、あずなの胸をざわつかせる。
「皆の妖精になっても──」
ジャンパースカートを畳んでいると、里沙の声が耳に触れた。
「え」
「何でもない」
「気になるじゃないー」
「あずなはセンスあるってことよ」
「……里沙には負けるよ」
「冗談でしょ?」
里沙は、彼女自身の魅力を少しも自覚していない。互いに賞賛をぶつけ合って、埒が明かないということも、ここ数日では茶飯事だ。
「あずなの作ったもの、好きだわ」
「里沙……」
「今度、私もドクイチゴでお買い物したい」
社交辞令でも、嬉しい。
地元の異なるあずなと里沙は、『乙女の避暑』を離れれば、おそらく顔を合わせる機会を持たない。里沙が、少しでもドクイチゴに興味をいだいてくれたとすれば、今後も繋がれる期待が持てる。
連絡先やアドレスは、あずなの方から訊かない。
空耳があずなを意気地なしと咎めても、里沙から連絡して欲しかった。