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貴女は私のお人形

第6章 もし、二人、似ているなら


* * * * * * *


 山を降りて十数分歩いた先に、四日前の駅がある。


 そこから一駅、乙愛は純と電車に揺られた。


 がらりと景観が変わった。


 『パペットフォレスト』の山麓、ノスタルジックな町並みも気に入っていた。一方で、ここ隣町の雰囲気も、どこか洒落た情緒がある。
 町の至るところに色とりどりの花が咲き、脇道に沿って、背の低い山が続く。木々が、瑞々しい若葉を着込んでいた。手入れの行き届いた草花が盛ってあるレンガの花壇に、大理石の記念碑。歩道のコンクリートは真っ白だ。明るい景色に調和している。



 純の観光案内を頼みにしながら、乙愛は白いコンクリートの道を進む。


 おりふし吹き抜けてゆく風が、穏やかだ。


 純の地元は、確か、乙愛と離れていない。にも関わらず、彼女はこの町に詳しいようだ。


 つと、オリエンテーリングで話した露店の店主の声が、乙愛の耳の奥にささめきかけた。


 二十年前、純は、『パペットフォレスト』を訪っていたという。

 だとすれば、この町を知り尽くしていても肯ける。

 純は、誰とこの土地を歩いたのか。美しく優しい彼女に並んで歩いていたのは、どんな女だったのだ。



 チェンジリング…………。



 店主は、聞き慣れない単語を口にしていた。


 チェンジリングとは、一般に、妖精が気に入った人間を、自分の子供、あるいは人形や樽とを取り替えて、さらっていくことを指す。

 まさか、文字通りのチェンジリングが起きたわけではあるまい。都市伝説の類か。それにしては、店主の口調は、いかにも事実を語っているようだった。



 妖精が、若い娘をさらってゆく──。



 今の乙愛には、こうも絵空事のようなものが、他人事と割り切れない。


 リュウもすずめも、本当に家に帰ったのか?

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