貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
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山を降りて十数分歩いた先に、四日前の駅がある。
そこから一駅、乙愛は純と電車に揺られた。
がらりと景観が変わった。
『パペットフォレスト』の山麓、ノスタルジックな町並みも気に入っていた。一方で、ここ隣町の雰囲気も、どこか洒落た情緒がある。
町の至るところに色とりどりの花が咲き、脇道に沿って、背の低い山が続く。木々が、瑞々しい若葉を着込んでいた。手入れの行き届いた草花が盛ってあるレンガの花壇に、大理石の記念碑。歩道のコンクリートは真っ白だ。明るい景色に調和している。
純の観光案内を頼みにしながら、乙愛は白いコンクリートの道を進む。
おりふし吹き抜けてゆく風が、穏やかだ。
純の地元は、確か、乙愛と離れていない。にも関わらず、彼女はこの町に詳しいようだ。
つと、オリエンテーリングで話した露店の店主の声が、乙愛の耳の奥にささめきかけた。
二十年前、純は、『パペットフォレスト』を訪っていたという。
だとすれば、この町を知り尽くしていても肯ける。
純は、誰とこの土地を歩いたのか。美しく優しい彼女に並んで歩いていたのは、どんな女だったのだ。
チェンジリング…………。
店主は、聞き慣れない単語を口にしていた。
チェンジリングとは、一般に、妖精が気に入った人間を、自分の子供、あるいは人形や樽とを取り替えて、さらっていくことを指す。
まさか、文字通りのチェンジリングが起きたわけではあるまい。都市伝説の類か。それにしては、店主の口調は、いかにも事実を語っているようだった。
妖精が、若い娘をさらってゆく──。
今の乙愛には、こうも絵空事のようなものが、他人事と割り切れない。
リュウもすずめも、本当に家に帰ったのか?