貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
「乙愛?」
乙愛の意識を、純の声が割って入った。
ウエストに、せわしなくなる衝撃が、ほとばしる。
純の腕が、乙愛を抱き寄せていた。
「あっ……純様」
「一件目は、『人形の館』で良くて?」
「はい!わぁ、綺麗ですわねっ」
恋人を気取った少女よろしく純に寄り添う。呼吸は縄にかかったようだ。辛うじて黒目を動かすと、アクアマリンを薄めた壁に、群青の屋根を載せた館が建物が見えた。どこかのブルジョアの屋敷をそのまま日本に運び入れた感じの洋館が、美術館の看板を掲げていた。
* * * * * * *
ガラスの檻は、まるで扞禦だ。ショーケースに並んだ少女らは、無の生命力がこれでもかと言わんばかりに漲っていた。客をもてなしながらも決して媚びない。血液は、呼吸は、永遠の彼方に停止している。端から内在していないのだ。
少女達は肩を寄せ合って、手と手を取り合い、また、架空の世界を見澄ましていた。
濃く長い睫毛の影が差す、伏しがちな目は、昨夜乙愛がダイニングバー『迷宮ドール』で見かけた孤高なあの人形達とはまた違う。
今、目前にいる二体の人形達は、人の手にあてがわれたパートナーだけを、ガラスの瞳に映し出している。
淡いピンク色の小花が刺繍された揃いのワンピースを着て、揃いのカチューシャを頭につけた彼女達は、髪の色だけ異なっていた。一方は金髪、もう一方は黒髪だ。
「小さい頃、私、お人形になりたかったんですの」
はかなしごとを始める調子で、乙愛は呟いた。
「……お人形?」
純に目を向けていると、どこからともなく羞恥が乙愛をからかいにかかる。
子供じみた話をしている自覚はあった。