貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
女は、神話から抜け出てきた騎士のごとく風采だ。
背筋は凛と伸びており、肩にかかる金髪は、陽の光を吸い込んだように眩い。
憂いを帯びた面立ちは、奇跡のように玲瓏だ。どんなドールも彼女の前では色褪せようほど、そこには完成された美があった。
女の侠気な目許に映える暗い瞳は、愛おしそうにやるせなさげに、天使の花籠を見つめていた。
花籠と同じ、真っ白な洋服が、女の身を包んでいた。
胸元に光るペンダントトップの瓶に閉ざさされた青が、唯一、女に備わる色彩だ。
「───…」
囁くようなソプラノが、何者かの名前を呼んだ。
高いとも低いともとれる、どちらともつかないソプラノだ。
「───…」
もう一度、女は何者かの名を呼んだ。
悲しげに、女の美しい顔が歪む。
「お姉様」
にわかに第三者の声がかかった。
女の後方に、長い黒髪を三つ編みにした、黒縁眼鏡の女が佇んでいた。
年のほどは四十を間近に控えたところと見える。純朴で、いっそ少女らしくさえある。
「立ち入り禁止区域だからって、それはまずいんじゃない?」
「ここは」
「感傷に浸っている場合じゃないでしょう。あの方だって、そんなこと望まれていないはず」
「貴女に何が──」
「分かるわ」
たゆたいなく断言すると、黒縁眼鏡の女は白い女に倣って膝を下ろした。
盛り土に向かって、お姉様と呼ぶ女と肩を並べて両手を合わせる。
女には、無情で親身なこの女に、反論出来るだけの根拠がなかった。