貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
結局、乙愛も、灰色に魅了されている。
人智を超えた力は見通すのだ。理想はどれだけ明確でも、所詮は乙愛も、この世界に見合った人間なのだと。
「それに引き換え、お人形は、綺麗です」
「──……」
「ビスクの身体は半永久的にその姿を保ちます。ガラスの瞳は曇りません。彼女達は、この世界を見ているようで、見ていないのかも知れません。絶対的な、彼女達にしか見えない綺麗な世界を、見つめているのかも知れません」
「乙愛……」
廃工場らしきセットに紛れて、蜂蜜色の豆電球が、包帯を巻いた黒髪の人形を一体、強調していた。
綿が剥き出しのぬいぐるみや、割れた積み木、壊れたミニチュアが雑駁たる眺めを描く中、人形だけが、非の打ちどころのない素肌を光らせている。緑の瞳に紫色のシフォンのドレスが、暗い世界にまざまざと映える。
「悲しい眺めだわ」
「綺麗な悲しさも、あるんですね……」
乙愛の視界の片隅に、生身の嬋娟を携えた横顔がちらつく。
「ドールになれる方法を、調べたことがあるの」
純の口調は、他愛なかった。
「一つは、チェンジリングの標的になる方法よ。妖精は目をつけた人間を連れ去る時、自分の子供か、あるいは人形を残していく。中には樽や木端、生き物の形でさえないものを、身代わりに置く例もあるようだけれど。そうすることで、正鵠と現世との縁を断ち切るの。身代わりが、妖精界へ連れ去る人間の代わりに、この世の存在になり代わるんだわ」
まるでお伽噺のレベルだ。
人形になれると期待していたわけではなかったにせよ、乙愛は少なからず肩を落とす。
「二つ目は」
どのみち難題だ。
分かっているのに興味を惹かれる。純の言葉は何でも聞き逃したくない。