貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
「二つ目は、剥製になることね」
「剥製っ?!……って、あの?」
「ええ、あの剥製」
確かに見たところ人形だ。乙愛は触ったことはないが、元は命あった死骸とは言え、肌の表面も硬そうだ。
「毒で眠ってもらうでしょう。それから身体中の色んなところに、防腐剤を注入するの」
想像すれば、空怖ろしい。
並大抵の人間が耳にすれば、震え上がろう。それを平然と言ってのける純が、乙愛にはいっそ妖しい美さえもたらす。
甘い吐息が首筋に触れた。
艶麗な声が耳許にやおら囁けば、乙愛の身体は軸を失う。
乙愛の肩を抱いていた手が、腕を伝う。やおら抱き締めるようにして、喉元、鎖骨へ降りてゆく。
「永遠に無垢な素肌を手に入れた乙女の身体は、段々、ゆっくりと、ドールのような硬さを帯びていくわ。柔らかな髪は柔らかなまま、頬は白く、限りなく白くなってゆく。しなやかな手足は愛撫してもキスしても、びくともしないの。生きた女の子より、ずっと、人形師に従順よ。動かなくなった乙女の身体を愛でられるようになったなら、乙愛はどんな楽しみ方をするかしら?」
「あたしは……」
純の手が、乙愛の腰の辺りを彷徨っていた。
呼び水のようなものの呼び込む法悦に、乙愛の意識は奪われていた。思考がまともに動かない。
それでも、急いで頭を働かせる。
「人形師より、あたしはお人形が良いですわ」
「まあ」
「純様に、あたしを……世界一幸せなお人形にして欲しい。どんな楽しみ方だって、純様に愛でてもらえるお人形なら、最高に幸せなはずですわ。だから」
図々しか。
それでも純には、乙愛に本音を曝け出させる何かがある。
「可愛らしいわね、貴女は」
「そんな……」
「剥製は、血や臓腑を排除して、代わりに無機的な別のものを詰め込むことで、完成する。乙女の形をしたお人形は、人形師の手に、身体も命も魂も、委ねることになってよ」
「身体も命も、魂も……」
「そう」
「人形師が、天使みたいな純様なら」
「乙愛……」
「受け取って下さ──」
唇の自由が奪われた。
純の唇が、乙愛のそれを塞いだのだ。