貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
「んっ」
「乙愛」
「…………っ」
角度を変えて、繰り返してキスを啄む。
躊躇いながら乙愛が純に応えると、少し強引に始まったキスは、たちまち優しく変わっていった。
手と手をとって、組み繋ぐ。
小鳥が互いを味わうような、唇で触れ合うだけの無邪気な行為を、乙愛は純と、重ねていった。…………
「純様っ……」
「乙愛」
「お慕いしています」
「愛してる」
顔を見つめ合えるほどの名残りを挟む。
時が止まっているようだ。
乙愛の唇に、純と交わした想いの証の、甘い余韻が残っていた。
「純様……」
繋いだ手の感触が、胸を満たす。
「乙愛は、お人形になってはダメ」
「なれない、ですか」
「違うわ」
「──……」
「生身の女の子の方が、甘いキスをくれるから」
「っ……」
「生身の乙愛が、私は好き。芳しくて柔らかい、温かいわ」
繋いだ手が引かれていった。バランスを崩しかけた乙愛の身体は、純の腕が絡め捕る。
花の匂いが鼻を掠めて、衣服を通して素肌と素肌が温もりを得る。
このまま純ととけ合ってしまいたい。
「乙愛は、私のお人形さんだから……」
その声は、まるで魔法だ。
身体は人形になれなくても、純の魂(こころ)は、乙愛を世界一幸せなドールに変える。
「乙愛は今の乙愛のままで、私に愛でさせてくれれば良いの」
ここは妖精界でも冥土でもない、もちろん廃工場でもない。
乙愛は、知らない内に楽園に迷い込んででもいたのではないか。