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貴女は私のお人形

第6章 もし、二人、似ているなら


* * * * * * *



 つと、あずなは一軒の店先に目を留めた。


 古びたショーケースに色鮮やかな袋が並んでいた。赤やオレンジ、群青や白といったとりわけ目を引く色彩が、木造建築いうこの町らしい外観に、不思議と馴染む。

 近付くと、一見して染め物に見えた袋や暖簾は、織物だった。
 花火や金魚、手鞠や女の絵が華やかだ。とても元は糸だったとは思えない。


 職人と思しき男が、上がり框の向こうに腰かけて、大きな織り機を動かしていた。年のほどは七十前後だ。

  
「やっぱりお爺ちゃん!プロだと思ったわ」

「入ってみる?」

「いい。忙しそうだし、貯金しているから、あまり買い物したくないんだ」

「今日は見るのに専念するのね」

「そういうこと。家族や友達のお土産は、後で買うけど」

「そう」

「里沙は?お土産。里乃さんとか」

「ビンゴ大会の景品が良いって。絶対に持って帰ってくれって、昨夜から、何度もメールしてくるの」



 なるほど、里乃は乙愛に匹敵する純の熱狂的心棒者だ。彼女なら、この土地独自の名産物や工芸品より、純にまつわる物品の方が、遥かに価値を見出そう。

 職人は、来客に見向きもしない。黙々と絵を織っていた。





「あら、お嬢様に王子様!」


 店を離れて数歩進むと、聞き覚えのある女のだみ声が、あずなの耳に飛び込んだ。


 強烈なインパクトを残す大きな声は、一日や二日では記憶の持ち場を遠ざからない。

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