貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
「『なごみ』の沢井さん……」
「覚えていてくれたんだねぇ!あたしもお前さんは忘れないよぉ、こんなべっぴんさんが都会から来るこたぁ、滅多にないからねぇ!」
民芸品店『なごみ』の店主とは、これで二度目だ。
澄花が企画を進めたというオリエンテーリングには、『パペットフォレスト』の近辺の店の協力を扇いだ課題がいくつかあった。民芸品店『なごみ』は、協力店の一つだったのだ。
「あの、沢井さん……」
沢井の握ったあずなの両手が、そろそろ悲鳴を訴えていた。
ちなみに彼女は、里沙の妹と同じ名前だ。
沢井リノ。
「おっと、失礼」
無意識にあずなが顔をしかめたからか。
ようやっと、沢井があずなを手離した。
「ところで、何だねお前さん方。またオリエンテーリングやっとるんかね?」
「「今日は」」
「あ」
「どうぞ」
「周辺を散策に来ました。今日は、私達の参加している『乙女の避暑』での催し物はありませんから、山を降りてみようかと」
里沙がもったいないほど綺麗な微笑みを添えた。
「もし良ろしければ、沢井さん。お勧めの観光場所を教えていただけませんか?あずなも私も、この町をほとんど知らなくて……」
「観光、ねぇ……」
おとがいを上げた沢井が黒目を宙に向けた時だ。
「んまぁっ、なんて愛らしいコケシなの?!こっちは割り箸入れじゃない。なんて可愛い着物を着た人形なのかしらん」
男の騒がしい声は、沢井の後方から聞こえていた。あずなが覗き見るまでもない。声の主の正体は、すぐに分かった。
「田中さん、よね?」
あずなは里沙に頷いた。
「あらあら、貴女達お知り合い?」
「彼も『乙女の避暑』に参加しやがってるんですよ。オリエンテーリングで見ませんでした?」
『なごみ』の店内は、手作りの味を際立たせた品々が、ところ狭しと揃えてあった。沢井のパートナーと、相変わらず真っ黒なドレスに身を包んだノゾミが、和気藹々と談笑している。
そう言えば、ノゾミの黒髪の巻き毛はウィッグだろうか。
彼の年端は、あずなの父親と変わらない。ノゾミの髪のあの色素は、五十代半ばの男にしては、ありえない。