貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
「写メ撮りてぇえ!」
「だからお前は田舎モンか!」
「ねぇねぇ『お帰りなさいませ』って言ってみてー?」
少年二人と少女一人が、乙愛の目前に立ちはだかった。間近に迫ると、いやが上にもいかめしい。
"純様──……!"
かような類の人間達に、怯みたくない。
顔を伏せるようにして、乙愛は斜め下を向く。
「ゴスロリ一人ぃ?返事して下さーい」
──ロリィタとゴシックロリィタの見分けもつけられないくせに、話しかけるな。
「質問です!真夏にメイドは暑くないんですか?!」
「バーカ、メイドじゃねーだろ。ゴスロリのお姫様だよねぇ?」
「暇してるなら俺らと遊びませんかー?ふざけた男子が多数います!」
「テメェゴスロリが好みだったのかよ」
「言ってみただけ。ねぇねぇ中はどうなってんのー?」
黒光りした少年の手が、乙愛のスカートに迫る。
「どうだって良いでしょ?!」
条件反射的にスカートを握り押さえていた。腰は自ずと上がっていた。
誰かと肩がぶつかった。それには構わず、乙愛は少年と少女の間をすり抜けて、ベンチを離れる。
「どうだって良いでしょ、だって!萌えー」
「カーワーイーいぃ。萌え萌えー、それ地声?何か喋ってーお姫様!」
「俺と肩組んで写メを一枚!記念に!」
…………人間以下だ。
本能に蹂躙されるだけの、野生の獣だ。
理性も礼節も、こまやかな感情も持たない。乙愛にとって、目路で勝手に盛り上がっているぼうぞく者らは、ただ二本脚で歩行出来るだけのまやかしだ。
「がはははははは」
粗末なTシャツの少年が、乙愛の行く手を再三阻んで腰を振り出す。
乙愛は洋服も触れ合わせたくなくて、後ずさる。が、後方もこれ以上はない。
気持ち悪い。わけの分からないところが痛い。蠢くように。乙愛を捕食し尽くさんばかりに。
「見苦しい生き物を観に来た覚えはないんだけど」
突然、天使の声が、恐慌した意識に凛と響いた。
目前で踊っていた少年の姿が消えた。