貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
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昼間のエントランスをくぐった本館の地下は、土産物屋やエステサロン、銭湯が集う。
乙愛は館内案内図を広げながら、サーモンピンクの長い絨毯を歩いていた。
地下一階は、まるで迷路だ。
数学の図形を見るのにも似た苦労の末、乙愛は何とかしてラウンジ『ブルードール』に至った。
『乙女の避暑』の主催の純と、参加者達が初めて顔を合わせる会場だ。
「『乙女の避暑』、参加者様でございますね?参加証をご提示下さい」
「はい。ここに」
「有り難うございます。お席までご案内致します」
店内は、小規模の晩餐に貸し切るには丁度良い広さだ。
深い青が近未来的なフロアを覆って、天井に埋め込まれた豆電球が、辺り一帯をプラネタリウムよろしく演出している。観葉植物が寡黙な生命力を置いて、カウンターの側にはアンティークドールがところ狭しと並んでいる書棚がある。
燭台には天使の形をした蝋燭や、至るところに水晶玉や天然石、オルゴールなどが飾ってあった。
バーテンダーが乙愛に案内したのは、オーガンジーの天幕に囲われた丸テーブルの十人席だ。
「有り難うございます」
薔薇のレリーフが背もたれにある、猫脚の優雅な椅子を引いて、彼女は乙愛を座らせた。
宴席には、既に三人の先客がいた。昼間に出逢ったすずめとリュウの姿もあった。