貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
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民芸品屋『なごみ』の沢井があずなと里沙に勧めたのは、聞き馴染みのない名の神社だ。
鬱蒼と茂る森を背負って夕間暮れの空の色の染みた鳥居をくぐると、石畳の階段が続く。
古びた看板が立っていた。楷書の文字が示すには、ここは縁結びの神が祀ってあるらしい。
「私達、ちゃんともらった地図の通りに来たよね?」
「ここで合っているんじゃないかしら」
「私には必要ないんだけど。里沙平気?」
「何が」
里沙は、生粋のクリスチャンだ。
知り合って間もなく、あずなが里沙にアパレルの仕事に就いた経緯を聞かされた時、付属してきた情報だ。
父なる神が現世に与えた救世主に共感した。
人間として生まれた以上、魂は、穢れなくして営めないと里沙は話した。
それでも彼らは強欲だ。無垢なものに憧れて、近づきたがる。里沙も例に漏れないという。おそらくあずなも。
高校生にいた時分まで、修道女を志すつもりでいたらしい。父親が蒸発し、母親が留置所に送られていなければ、今頃は神に仕えていたかも知れない。両親の代わりに自分達を引き取ってくれた親族が、妹、里乃を虐待していなければ、彼女を一人で世話しようとは考えつかなかったかも知れない。
はかなしごとに花を咲かせるように笑って、里沙はあずなに話していた。
彼女は、今でも目標を諦めたわけではなかろう。あずなはそんな気がしている。例えばいつか里乃が独り立ちすれば、里沙が一流ブランドの販売員に甘んじる理由もなくなる。
だから、私は貴女を。…………
そしてあずなにも、縁結びは必要ない。
「あずな?」
里沙の声が、あずなを我に返らせた。
「どうしたの、さっきから溜息ばかり。行くわよ」
里沙の片手があずなのそれと玉結びのかたちになった。
あずなも慌てて足を進める。