貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
太ももにまとわるパニエがぐずる。蝉や鳥の嚶鳴が、まるで軽やかに動作出来ないあずなの足を嘲笑ってでもいるようだ。
手と手を通して、鼓動が伝わりはしないだろうか。これ以上の汗はみっともない。肉体は、あずなの凝り固まっていた思考を蔑ろにして、果てないような階段を昇った分だけ症状をきたす。上がった息が、里沙に情けない印象を与えはしないか。
初デート中の少女が抱くような憂慮が次第にあずなを占めてゆく。
初めて里沙に逢った時、「皇子様」だと思った。この世のあまねく美しいものに愛された、妖精の皇子だと。
しかし、かなしいかな里沙は人間だ。幸か不幸か、生身の肉体を持て余しているあずなと同じ、人間だ。
人間が、こんなに美しかったとは。
とりわけ面食いなあずなでも、涙が出そうなほどの美を見出したのは、里沙が初めてだ。
魂の髄まで愛しても、叶わない。キリシタンで、しかも修道女志願の里沙と、あずながどうしてパートナーになれるのだ。
* * * * * * *
快晴の空の日だった。
暑くもなければ肌寒くもない、嫌味なほど快適な日であったことを、純は今でも忘れられない。
チャペルと隣接したホテルのロビーに駆け込んだ。
しかつめらしいスーツの男や黒いドレスで気取った女、優れた羽振りをひけらかさんばかりの着物の婦人達が、見栄と体裁を交わしていた。
大輪の銀の花束のごとくシャンデリアも、奇抜な香水のような極彩色のフラワーアレンジメントも、あの時の純には禍々しかった。
係の女を捕まえて、目当ての少女の居所を問うた。
…──わたくしには存じかねます。
じゃあ、あそこに書かれてる名前は何?
エレベーターのすぐ脇にかかった札を示して、女の虚言を指摘した。
二つ並んだ竹板の一方に、堂々と最愛の少女の名前が記してあった。純が何度も呼びかけて、囁いて、美しいと称えた名前。隣には、けだし殺しても殺し足りない男の名前が並べてあった。