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貴女は私のお人形

第6章 もし、二人、似ているなら



 女は泣き出しそうな顔を歪めて口ごもっていた。そのしおらしさも、純の同情は誘えない。

 彼女は、少なくとも今日一日だけ、横暴な客に従えば良い。
 しかし、それだけでは済まされない少女がいる。今日を区切りにこれから先の人生全てを他人に所有されてしまう少女がいるのだ。



 制服に身を固めた女の腕を引き寄せて、声を潜めた。女は否定しなかった。彼女の腰を抱き寄せて、甘い誘惑を振る舞ってやった。



 少女の居場所を、呆気ないほど、純は容易く聞き出せた。
  






 二階に駆け上った先の控え室の扉を開いた。


 白い少女が暗い明るみの牢獄にいた。

 二日前に別れたばかりだというのに、ただその姿をさせられているだけで、純には彼女ともう何ヶ月も逢っていなかったように感じられた。

 少女の真っ白な頬には紅が浮かんでいた。結い上げた長い姫カットの黒髪には、ドレスと同じ白い花。


 似合わない、でしょ、と、少女は笑った。そうして装飾性だけに長けた狭衣の裾をつまんだ。

 豪奢に流れる長いヴェールも、細い腰から広がるバッスルに続く襞も、雪のように真っ白だ。黒を好んでいた彼女らしからぬ色である。


 ウェディングドレスは、女性蔑視の象徴だ。にわかに思った。エスコートなしでは歩き回ることも出来ない。厚い化粧は、栄養素を補給するための食事さえ、少しずつしか口に運べないのだろう。



 …──迎えに来てくれたの?……待ってたのよ、私。



 少女のあえかな腕が純に伸びた。その指先が、純の頬に旧懐を呼ぶ。



 昨日も言った通り、私は貴女と一緒なら、どこへでも行く。今の生活なんていらない。でしょう?



 少女は話した。その日までにも純が何度も聞かされたことを、もう一度。



 結婚する前から花婿を疎んじる花嫁は、まもなく人類滅亡の時に居合わせるような顔をしていた。

 美しい顔を嫌悪に歪ませた、彼女の泣きそうな目が、純を責める。

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