貴女は私のお人形
第6章 もし、二人、似ているなら
「乙愛?」
肩に電流が走った。乙愛は心臓が飛び出る思いを振り切って、今しがた自分に触れた声の主を確かめる。
会いたい。確かに願った。願っただけで、本当に、純がいた。
フローリングに屈んだ純の目が、乙愛と同じ目の高さになる。
美術館の人形の前でのキスが思い起こされるほど、距離が近い。
「純様……」
「呼んだでしょ」
「何故……」
純の片手が乙愛の頬を包み込む。
侠気な瞳が乙愛を捕らえる。文字通り身動き出来なくなる。
意識が危うくなる一方で、とても安心する眼差しだ。
「不安そうな顔、してる」
「そ、ですか?」
「ひとりぼっちの仔ウサギみたいだ。私がいるのに」
「っ……」
「貴女は私が守ってあげる」
「そんな」
「冗談だと思ってる?」
「…………」
人の気持ちは、まるで空だ。確かなものなどどこにもない。あるとすれば、自分の中にのみあるのだと、乙愛は信じて疑わなかった。
失ったり傷ついたり、もうしたくない。
純のまごころにも偽りはなかろうが、それが永遠に変わらないと、誰に保証出来るのだ。誰もが、乙愛のように、変わらないものを願っているとは限らない。
焔は、水に消える。風にも消える。胸に灯る熱も同様。
一方的に純を好きでいる方が、けだし乙愛には向いている。