貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
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あずながその人物を見かけたのは、穏やかな昼近くのことだ。『乙女の避暑』のイベントまでの時間潰しに、里沙と散歩に出かけていたのだ。
「どうかした?」
薔薇園より向こうに続く雑木林に指を差す。
地上に注ぐ強い日差しが、瑞々しい緑に照りつけていた。手入れは行き渡っていないと見える茂みは暗く、草木も伸び放題だ。数日前に見た地図によると、あの先は立入禁止区域のはずだった。山菜やハーブの採集には見るからに魅力的だが、ノゾミがそうしたことをしたがるとは思えない。
「なんか、あいつ信用出来ない」
ノゾミは、何を考えているのか分からない。
得体の知れない胸騒ぎがした。
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乙愛の部屋に、ぎりぎりまで居座った。どれだけ乙愛と一緒にいてもい足りなかったが、午後は仕事だ。
いっそ乙愛のロリィタ服でも借りれば良かったか。一応、白だ。
そうした思いつきが純を悔しがらせる頃には、澄花の待つコテージに帰り着いていた。
「お帰りなさいませ。お姉様」
「……っ」
コルボックルが嘲笑う靴箱の側に、澄花が三つ指をついていた。普段は酒を買って来いだの肩を揉めだの姉使いの粗い妹が、慇懃に正座までして。
「どうしたの」
「おめでただから」
「はぁ?」
「お姉様のことだもの。乙愛さんに、あんなことやこんなこと、したんでしょう」
「──……」
白いショートブーツをすみやかに脱いで、純は框に上がった。
寝室へ向かいかける純の肩を、澄花の声が追いかける。
「あの乙愛さんに拒否られた?」
「なっ、澄花!」
独断でグランプリを決められるなら、午後の企画など開会する必要もない。ファッションコンテストの勝者は乙愛だ。
とりとめない純の空想に、澄花の冷やかしが邪魔をした。
「拒まれてないっての!……──あ」
確信犯的な澄花の笑みを目前にして、純は口許に手を当てる。