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貴女は私のお人形

第7章 きっとそれは満たされたこと


* * * * * * *

 あずながその人物を見かけたのは、穏やかな昼近くのことだ。『乙女の避暑』のイベントまでの時間潰しに、里沙と散歩に出かけていたのだ。

「どうかした?」

 薔薇園より向こうに続く雑木林に指を差す。

 地上に注ぐ強い日差しが、瑞々しい緑に照りつけていた。手入れは行き渡っていないと見える茂みは暗く、草木も伸び放題だ。数日前に見た地図によると、あの先は立入禁止区域のはずだった。山菜やハーブの採集には見るからに魅力的だが、ノゾミがそうしたことをしたがるとは思えない。


「なんか、あいつ信用出来ない」



 ノゾミは、何を考えているのか分からない。

 得体の知れない胸騒ぎがした。

* * * * * * *

 乙愛の部屋に、ぎりぎりまで居座った。どれだけ乙愛と一緒にいてもい足りなかったが、午後は仕事だ。

 いっそ乙愛のロリィタ服でも借りれば良かったか。一応、白だ。

 そうした思いつきが純を悔しがらせる頃には、澄花の待つコテージに帰り着いていた。



「お帰りなさいませ。お姉様」

「……っ」

 コルボックルが嘲笑う靴箱の側に、澄花が三つ指をついていた。普段は酒を買って来いだの肩を揉めだの姉使いの粗い妹が、慇懃に正座までして。


「どうしたの」

「おめでただから」

「はぁ?」

「お姉様のことだもの。乙愛さんに、あんなことやこんなこと、したんでしょう」

「──……」


 白いショートブーツをすみやかに脱いで、純は框に上がった。

 寝室へ向かいかける純の肩を、澄花の声が追いかける。



「あの乙愛さんに拒否られた?」

「なっ、澄花!」


 独断でグランプリを決められるなら、午後の企画など開会する必要もない。ファッションコンテストの勝者は乙愛だ。

 とりとめない純の空想に、澄花の冷やかしが邪魔をした。


「拒まれてないっての!……──あ」


 確信犯的な澄花の笑みを目前にして、純は口許に手を当てる。

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