貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
「澄花、お茶会ではダメ。特にあの田中には」
「口外するはずないでしょ」
「……そう」
「ね、お姉様」
「まだ何か」
「お茶会まで、時間はあるわ」
澄花の声音が一転して、神妙になった。
「シャワーでも浴びて、もう一度、泣いていらしては?」
「…………!」
我が妹ながらぞっとした。寝室のノブを握ったまま、足が竦んだ。
振り返った純の頰を澄花が挟んだ。こらえてきた何かが崩れ出しそうになる。
「憎みたい女を、憎めないって……どう思う?澄花」
「──……」
「一度死んだようなヤツが、心から安らげるって、ふざけてるよね」
許せない。自分が。
愛する少女一人守れなかった人間が、ひとときでも救われる気がしていることが、怖くて憎くてたまらない。
「澄花に、お願いがある」
沈着な妹の片手を捕らえた。
純の眼差しを受けて首を横に振った女など、今まで一人もいなかった。
「聞いてくれる?」
澄花も、例外ではない。
* * * * * *
二日前にも一同が顔を合わせたティールームに、二日前と同じ茶葉の匂いが充満していた。一面だけガラス張りになったここは、今日も豊かな自然の風景が見える。
「サーモンピンクのジャガードに、レースを重ねたテーブルクロス。色んな花が模様編みしてあって、お花畑にいるみたい。スコーンの隙間に挟んである薔薇、食用じゃないよね?うっかり食べそう」
「あずなならやりかねないわね。このフラワーアレンジメント、どこでオーダーされたのかしら?麦わら帽子に見立ててあって、とっても可愛い」
「本当。あっちもだ、ウサギの形してるよぉ。白いカーネーションを使って、瞳はドライチェリーなんだ」
里沙とあずなが、あれこれと物色していた。正方形のテーブルが六つ向かい合わせに並んだ茶席は、彼女達がそれだけ盛り上がるように装飾されていた。
乙愛の手前も同様だ。菓子皿にはブリザードフラワーが散らしてあって、珍しい形にアレンジメントされた花々は、いずれ枯れるのが惜しいくらいだ。天使やウサギの置物は、ガラスか白磁で出来ていた。
菓子は定番のスコーンの他に、マカロンやギモーヴが揃う。二日目のお茶会でもこのとりあわせが含まれていた。ヴィクトリアンケーキやヌガーなど、渋めの紅茶を飲みたくなるものもある。