貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
乙愛の選んだダマスクローズの紅茶も一杯目が底をつこうとしていた頃、純がティーカップをソーサーごとテーブルに戻した。相も変わらず優雅な所作だ。
バニラのマカロンを齧るのをやめて、乙愛は純に首を回す。里沙とあずな、ノゾミも茶話を中断して、進行係に注目した。
するとまもなく、純がファッションコンテストの開会を宣言して、ルールの説明に入った。
まず、コンテストにエントリー出来るのは、『乙女の避暑』に参加者している四人だ。乙愛らを審査するのは、純と本来であれば澄花、それからファッションコンテスト兼お茶会のステージとなる『フェアリーガーデン』の従業員だ。純や従業員達から最も多くの票を得た挑戦者が、グランプリに選ばれる。
グランプリに選ばれると、今日のコーディネイトが施設内のフォトスタジオで撮影される。このためだけに、乙女心をくすぐるセットが準備されているらしい。完成した写真は後日、純のオフィシャルホームページに掲示される予定だ。もちろん別に賞品もある。
「コーディネイトの披露の流れは、以前皆さんに送付した、『乙女の避暑』参加案内パンフレットに記載した通りです。あのガラス戸を開放するので、参加者の皆さんは、一人一人、音楽に合わせて、あの中庭を右から左へウォーキングして、元の席に戻って来て下さい。途中、何かポーズなどを付けて下さって構わないわ。出来れば、軽く回ったりしてくれた方が、お洋服もよく見えます」
澄花の、プロ顔負けの、落ち着きのある司会とは違う。ルールを説明している純の声は、やはり天使の囁きだ。
乙愛が純に恍惚としていると、従業員の一人が純に書類とペンを運んだ。
「…──以上で、ルール説明は終わり。質問はあって?」
誰も質問はないようだ。