貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
「ありません。完璧です」
「そう。湖畔さんは、呑み込みが早いのね」
「乙愛ちゃんみたいに、神無月さんにぽーっとしていませんでしたから」
「残念。私、貴女にとっては魅力に欠けるのかしら」
「乙愛ちゃんとラブラブなら、問題ないじゃないですかぁ」
あずなが、とうとう純まで冷やかし出した。
見惚れていた件に関しては認める。認めるが、理解はしていた。
反論したくなった時、乙愛は純と目が合った。
「そうね。問題ないわ」
半分ほど齧ったバニラのマカロンが、乙愛の皿を浮き上がる。
「湖畔さんと野本さんのように……いいえ、私達はそれ以上かも」
純が意味深に笑みをこぼす。さっき乙愛が口にしていた欠片が、彼女の唇に含まれてゆく。
「むぅぅ……乙愛ちゃんと違って、可愛らしく恥ずかしがってくれない」
「見ている私達の方が、目の遣り場に困るわね」
里沙がむくれたあずなを宥めていると、従業員のスタンバイを終えた合図が届いた。
幻想的な管弦楽のBGMが流れていた。
給仕の制服姿の女達がかしこまる側、金色の風が開放されたガラス扉を通り抜けて、冷えきった店内を穏やかにする。
緑の芝生や花壇に寄せ植えされた瑞々しい草花が、夏の日差しを浴びていた。都会と比べて夜は冷えるが、やはりここにも然るべき四季が巡っているのだ。
「野本里沙さん、どうぞ」
里沙が、中庭に向かって歩き出す。
一本の線の上に踵を置くようにして歩く彼女は、颯爽としていて格好良い。長身で、すらりと細い肢体の線が、より際立つ。
「里沙王子、素敵ねぇ」
「当たり前でしょ」
あずながぶっきらぼうに呟いた。
たとえ相手がノゾミでも、里沙を良く言う人間を無下にする気にならないのだろう。