貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
さっきから絶えなく目交いにいたはずの友人を、今一度、乙愛はとくと観賞する。
シフォンのブラウスの色は白で、里沙にしては珍しい。縦襟に結ばれたリボンタイはレースのシャボに重ねてあって、控えめなフリルの姫袖が却って上品な印象を仕上げる。銀色の花が刺繍された黒いベストは裾がアシンメトリーになっていて、最小限の装飾にとどめてある黒いボトムが、それらをより豪奢に見せる。白くたわやかや人差し指には、メタルブラックの蝶が一匹。シャギーの髪は下ろしたままだ。こめかみに、リングと同じ感じの蝶と小振りの青い薔薇のコサージュが二つ、飾ってあった。
中庭の中央に立った里沙が、さながら歌劇のスターを彷彿とする調子で一礼した。
ノゾミではないが、乙愛は自ずと胸の辺りで両手を重ねた。
延々と続くオーケストラの旋律を連れて、里沙が元いた茶席に戻った。
「次は、田中ノゾミさん。どうぞ」
ノゾミが歩き出すと、にわかにしゃがれた黄色い歓声が沸いた。
会計処の方からだ。
「ねぇあれ、男の人じゃない?」
「私達と同い年くらいよぉ、きっと!良いわねぇ、いつまでもお若くて!」
「私達も頑張らなくちゃ。それにあの人、今お化粧しているからあれだけど、よく見るとシブい顔をしているわよねっ」
「後でアドレス訊いちゃおうかしらー!」
とりわけ年配の従業員らが、ノゾミを賞賛していたのである。なるほど、今目を輝かせている彼女達は、乙愛をあれだけ胸高鳴らせたさっきの里沙にはそれほど反応していなかった。
普段ゴシックやらロリィタやらに馴染みのない従業員達を、審査員に含める。そうすることで、先入観や偏見が排除される。
これこそ、この企画を公平なファッションコンテストとして機能させるため、純の狙った効果だったのかも知れない。
ノゾミが中庭の中央に足を止めた。黒とグレーのフリルが交互に重なったスカートをつまみ上げて、王女の仕草で頭を下げる。
またもや会計処の付近から歓声が上がった。