貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
「お疲れ様。大人気でしたね」
「里沙王子こそ、あちらのお姫様達が、おめめをハートにしていたわよ」
「次は、わた──…失礼。文月乙愛さん。よろしく」
「今、神無月さん、私のって言いかけなかった?」
「気の、所為、ですわ」
「ファイト!」
あずなに背中を押されながら、とうとう乙愛はステージに出た。
乙愛は自己暗示をかけて、ドールにでもなった思いで足を交互に進める。右手は軽く前後に振って、左手には『Saint melody』のパラソル。そうして乙愛はガラス戸を抜けた。
星空へ吸い込まれるようなオーケストラのメロディが
、後方で乙愛を盛り立てていた。
黄金色の日差しが乙愛の白いジャンパースカートに被さる直前、黒いパラソルを空に広げた。乙愛の頭上を薔薇とリボンの花畑が覆う。胸にも薔薇。さっき純から受け取った、白い生花だ。
今日乙愛の着ている一見真っ白なだけのジャンパースカートは、実は小鳥柄の綿レースとドットチュールのフリルとがふんだんに使われている。けだし間近でなければ分からない。背中のシャーリングに交差したリボンがレース編みだということも、ヒップに被さるバッスルを飾ったリボンがどれだけこだわってあるのかも、同様だ。
来る者拒まず、去る者追わない。
このワンピースの作り手は、時代や風潮に干渉されない。
あずなはあずなだけの世界に閉ざされて、彼女の美を生み出している。ある意味ドールだ。他人の目を気にかけるばかりか、感じることもしないのだろう。
ドクイチゴの飄々とした作風が、乙愛は好きだ。
乙愛をドールに変える。不可侵の世界に閉じ込めて守る、無垢で可憐な扞禦が好きだ。
ただ一瞬の晴れ舞台。誰か一人で構わない、ここで、何か伝えられるだろうか。
指定の位置で一礼して顔を上げると、乙愛は純と目が合った。
純の目が優しく微笑った気がした。