貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
「お疲れ様」
「乙愛ちゃんのヘッドドレス、ウサギさんが隠れているのね」
里沙が乙愛の白いヘッドドレスを軽くめくって、実質の土台を吟味する。
「ふわふわのウサギさんが布団に眠っているみたいにして、ロリィタさんのヘッドドレスがある。どこに売っているのかしらって、あそこの女の子達、羨ましそうだったわ」
「里沙さん……」
乙愛が里沙の視線を追うと、同年代くらいと思しき少女達と目が合った。例にもれなく従業員姿の彼女らが、乙愛に朗らかな笑顔を向けた。
「最後です。湖畔あずなさん、どうぞ」
里沙の颯爽とした足どりとは違う。ノゾミの楽しげなそれとも違う。乙愛の、とにかく歩くのに精一杯だったろうそれとも違う。
あずなの歩調は、微かな足音も聞こえないような、風を縫う妖精を彷彿とする。
軽く、軽く、乙愛が思い描いていた軽やかさとは別物だ。
あずなが羽根の生えたような足どりで、ガラス戸の向こうに出た。
むら染めの空色のリネンのブラウスの、トーションレースの姫袖から覗く白い手が、生成のパラソルを空に広げた。途端に、薄紅色の花びらが、あずなの周りにひらひら舞い出す。
「すごい……演出……」
ノゾミが腰をよじるのも失念して、目を見開いていた。
あずなが中庭の中央に足を止めた。
三日目の夜もカラオケルームでアドリブパフォーマンスを披露していた彼女は、ここでも一筋縄ではいくまい。
乙愛が推測した通り、あずなはくすんだ翡翠の色のレースのショールを合わせた生成のボレロの懐に手を入れた。出てきたのは、青と緑の羊毛フェルトで出来たウサギだ。