貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
「優勝はあずなちゃんでしょうから、一つ、忠告しておくわ」
ノゾミが粘着質な声を低めた。機嫌を損ねたわけではない様子だが、ありふれた初老の男らしい声音は、たった今までのノゾミを知る乙愛の耳には、まるで別人のそれとして入った。
乙愛は、あずなの横顔を盗み見る。
可憐な妖精の堪忍袋の緒は、今に切れてもおかしくない。
ノゾミは、怯みもしないで息を吸った。その顔つきは深刻だ。
「貴女、一人になっちゃ、いけないわよ」
「はぁ?!」
「乙女心をくすぐるセットで写真を撮ってもらう時は、里沙王子でも連れて行きなさい」
諧謔か、真剣か。
悪ふざけにしては神妙すぎるノゾミの様相に、乙愛は気味が悪くなる。
何故、一人になってはいけないのだ。…………
「澄花ちゃん」
「えっ……」
「皆、本当に家に帰ったなんて、思っている?」
乙愛と里沙、あずなは顔を見合わせる。
「リュウ王子とすずめちゃんもね」
「──……」
「妖精に魅入られたのよ」
ノゾミが黒い巻き毛を指でとかす。
「この『パペットフォレスト』は、チェンジリングが起きる場所。皆、行ってはいけない世界へ逝っちゃったのかも」
誰もノゾミを咎めなかった。
咎められるだけの根拠と自信を、誰も持ち合わせていなかった。