貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
不安だ。
純はいつでも乙愛の欲しい言葉をくれて、想いをくれる。信じられない、身に余るほどの幸せを、たくさん与える。
彼女の想いを、ようやく信じられつつあった。一緒にいると息も詰まるが、側にいないと胸に途方もない穴が開く。
純を愛して、愛されている。
久しく心から笑えるようになったのに、乙愛は、今また別の不安に駆られていた。
美しい、この世の全ての奇跡から出来ているかのような純は、美しすぎる。
身も心も曇りのない、乙愛の心魂に映る彼女は、あまりに美しすぎるのだ。
純なら、本当に妖精に魅入られても、不思議ではない。
「いなくなるはず──」
「違うんですの!」
「乙愛?」
「違うん、です……」
離れたくない。
乙愛は、純と離れたくない。
何故、こうも胸騒ぎがするのだ。
純が乙愛を見限るとか、彼女の想いが気まぐれだとか、そうした類の鬼胎ではない。
乙愛が傷つくだけの不安だとする。それで純の嚮後に繋がるなら、甘んじて孤独を受け入れる。しかし胸を渦巻く不安は、不吉なものを内包していた。
妖精など迷信だ。しらを切っていた裏腹に、乙愛は恐怖にとり憑かれている。
ノゾミの話を聞いてから。否、リュウがいなくなった時からか。
「大丈夫」
乙愛の手に、純の片手が重なった。
「貴女は私が守ってあげる。私の──…お人形さん」
羽のような口づけが、頬に触れた。
魔法だ。
常なら信じ難かろうことでも、現実ではありえなかろうことでも、純の言葉になった途端、それらは乙愛の常識に変わる。
「純様……」
この手を、離したくない。
乙愛は純の手を固く握った。