貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
「さてと」
どれほどの時間が滑って消えていったのだろう。
朱色だった空は青みに呑まれ始めていた。
「そろそろ行かなくちゃ」
当然だ。純には『乙女の避暑』の仕事がある。
仕方がないのに、乙愛は寂しくて泣きたくなった。
「湖畔さんに会うまでに、少し、用があるんだ」
「はい……」
「乙愛の写真、本当に欲しかった。貴女は綺麗だ。それに、グランプリが貴女なら、離れる必要なかったからさ」
「──……」
純の片手が、繋いだ乙愛のそれを撫でる。
指の線をなぞって、手の甲を包み込んで、純の優しい指先が、乙愛の片手を惜しんでいる。
十分だ。
「行って下さい」
「乙愛……」
「グランプリは、あずなさん以外に考えられませんでした。あたしは、純様に一言、身に余る言葉をいただきたかった。ですから、もう満足です」
「乙愛」
「有り難うございます。……好きです、純様」
純が、小さく笑った。
「街に戻れたら、きっと二人で」
彼女の言葉を遮って、乙愛は天使の唇に、キスをした。
デートの誘いは、ここで受けたくない。
現世とはどこか隔絶されたここではなく、街に帰って、乙愛も純も日常に戻ったあと、二人で逢う約束をしたい。純の想いを、もう一度、確かめたい。何度でも、乙愛は純の想いが欲しかった。