貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
黒髪のドールと金髪の天使がキスしていた。
英国風庭園のベンチに並んで、遠目に見ると揃いに見えなくもない白装束のドールと天使は、このまま一つにとけ合うのではないかと思えるほどだ。
互いを強く想うあまり、烈しく求め合うあまり、薄らいでいった朱色の光に、とかされるのではないか。
あずなは、手前の小路から乙愛と純を傍観していた。
覗き見するつもりはなかった。ただ、身体が静止しただけだ。何せ二人が交わしていたのは、洋画でも滅多にないようなくどい抱擁と、くたびれるほどの長いキス。飽きもしないでまるで永遠の別れを惜しむかのような彼女達の口づけに、あずなは半ば呆れていた。正直なところ、脚と脚の間を力ませないではいられなくもなった。
「終わりそうにないねぇ。グランプリの座、乙愛ちゃんに譲ろっかなー」
踵を返して里沙におどける。
皇子の風采の友人は、あずなの肩越しに問題のシーンに目を遣っていた。
「そうでもないみたいよ」
「え」
「ほら」
目を離したばかりの庭園に、あずなは今一度振り返る。
「ね?」
ベンチを離れたドールと天使が、各々の方向へ歩き出していた。
乙愛はあずなと里沙がいる方へ、純は薔薇園の方向へ、向かっている。
安堵に付いて、あずなに微かな違和感が迫る。
純の向かった薔薇園は、そこを過ぎると寂れた泉のある森と、立ち入り禁止区域の他に何もない。
もっとも、首を傾げている場合ではない。
「里沙、隠れて!」
乙愛との距離が縮まっていた。
彼女があずならに気付くまで、時間の問題だ。覗き見の現行犯にはなりたくない。
近くの木陰に飛び込んで、あずなは里沙を引っ張った。