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貴女は私のお人形

第7章 きっとそれは満たされたこと




 寝室に至るや、聖音が糸の切れたマリオネットのごとくくずおれた。形の良い二本の脚は、骨が抜き取られてでもいたようだった。





 あいつに……犯られた。





 聖音にカーディガンを羽織らせた。その間際、虚ろな目をしかめさせたささめきが、純に涙の根拠を知らせた。






 草木も眠る深夜三時も過ぎた頃、ようやく聖音は落ち着いた。

 落ち着いたと見せかけられるほど、涙は枯れ果てていた。


 凄惨に切り刻まれた心身は、傷痕を瘡蓋に閉ざす術を持たない。


 聖音を家に上げたあと、純は彼女とシャワーを浴びた。不可視の鮮血を流し続ける白々しいほど白い肢体のすみずみに触れてキスをして、その総身を洗ってやった。寝間着を貸して、温かいミルクティーを振る舞った。


 一晩中、彼女を抱き締めているつもりだった。

 抱き締める以上のことを、出来なかった。


 結婚式当日の朝、あれだけ切実に求め合っても、純は聖音と結ばれなかった。ゴミ同然の男の感触が遠ざかるまで純が弱った肉体を抱けば、彼女は壊れる。彼女の記憶にこびりついた悪魔の声が砕け散るまで赤心を囁けば、彼女は狂う。



 自分を抑えられなくなるのが怖かった。純は聖音に触れられなかった。



 だが、聖音から純に触れてきて、結局、愛慾と快楽の海に二人して溺れた。



 聖音を一糸まとわぬ姿にした。純は彼女の身体を開いた。激しくまさぐればまさぐるほど、聖音は歓喜の声を上げた。
 透けるような肌が薄紅を帯びるまで愛撫して、首筋や腕に痕を散らした。舌を絡ませながら首を絞めて、潤んだ粘膜に爪を立てた。親指を除く片手の指全てで彼女を突いて、襞が破れようほどかき乱した。
 透明な飛沫が噴き出た。焦点の定まらなくなった聖音を、間断なく愛した。ベッドに入って数十分、何度聖音が収斂したかも、何度彼女が潮汐波にさらわれたかも、分からなかった。



 書類上の伴侶の、たった一度の侵入など無にしてやる。

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