貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
「お、とこの、ひと……?」
「ジェンダー差別、ハ・ン・タ・イ、よ」
「もっともだ、レディ。俺もそのつもりでここに来た。同志として、共に闘おうではないか」
リュウがノゾミに片手を出した。ノゾミはにこやかに小首を傾げて、握手に応じる。
見るとすずめも、理沙まで二人に感心した目を向けている。
得心がいかないのは、乙愛だけか。
ここのルールは純の意向だ。
「おと姫、納得してないでしょー?」
「すず姫、読心術?」
「おと姫が分かりやすい顔してたのよ。すずめも納得出来ないけれど、リュウ様がつまみ出されちゃすずめ、生きていけない。ノゾミ姫を支援してあげる理由は、それだけなのだわ」
「…………」
「リュウ様と純様、どっちが勝つかしらねぇ」
他人事のように笑うすずめには、とっくに、リュウ達に勝算を見出してでもいる風だ。
* * * * * * *
懐中時計が開宴五分前を示す頃、乙愛は頭の天辺からつま先までが、一触即発の心臓になっていた。談笑も、上の空だ。
五分も経てば、高嶺の花、否、神様、憧れで理解者で、最愛と認めても語弊ではない神無月純が同じテーブルに着くと思うと、とても落ち着いてはいられない。
鼓動が痛い。純に逢うまでに倒れてしまうのではないかと、乙愛は思う。
純のあの玲瓏な声や、清冽な心魂を裏づけたような精神観を想うだけで、乙愛は恋する乙女になる。
純の容姿などどうでも良い。
天使の歌声を持つ純が、本当に人外の存在だったとしてもだ。今更、乙愛の気持ちが変わる術もない。