貴女は私のお人形
第8章 だから世界の色が消えても、
あずなの理想とする、あどけく可憐なドールに魂があるとする。けだし乙愛のような少女になる。
乙愛を想うあずなの気持ちは、純が彼女を想うそれとは異なる。だからこそ、誰よりあのドールを愛しているだろう純に、あずなは本音を口に出来る。
「乙愛ちゃんに会って」
──どうだったか。
「乙愛ちゃんに会って、前よりもっと、彼女が好きになりました」
メールや掲示板でのやりとりだけでは分からなかった。「文月乙愛」がどういった姿をしているのか、どんな思いを持っているのか。彼女の人物像を得られる情報には限界があった。
実際に姿を見て、話をして、あずなは乙愛を初めて知悉した。
「乙愛ちゃんは、美しい。姿もこころも、お客様だからとかじゃなくて、好きになりました」
いつまでも少女でいるような、乙愛が。
無条件に、あずなは彼女に惹かれていた。
訊かなければ良かった。
あずなを知ろうとしなければ良かった。
底知れない心魂を持つ妖精は、案の定、知ろうとすればそれだけの代償があった。
恐怖とも恍惚ともつかないものがもたらす慚愧が、純を責め立てていた。
「次は、神無月さんの番です」
あずなの声にはたとして、顔を上げた。
少し低めの、まろやかな掠れを含んだ甘い声。まるで媚薬だ。
三日目の夜カラオケルームで歌を聴いた時も、純は肩の竦む思いがした。その声には、逆らえなくなる何かがある。
「何故、『Saint melody』を始められたのか。先輩として訊かせて下さい」