貴女は私のお人形
第8章 だから世界の色が消えても、
「『Saint meldy』……湖畔さん、前に綺麗な名前だって、言ってくれたね」
「聖なる音色。訳すとそういう意味ですよね。神無月さんの歌、ってことですか?」
存外に無邪気な憶測だ。正解ではない。
現在時刻は、午後六時五十分だ。本来あずなと落ち合う予定だった七時まで、残すところ十分だ。
刻限は、迫っている。
「『Saint melody』」
小さく、純は呟いた。
自ら手がけるインディーズブランドの名前を口にする時、純は、至高の愛の言葉を囁く思いに囚われる。
彼女は赦してくれるだろうか。
かつて純が愛した彼女は、あずなにこの胸の内を明かしても、赦してくれるか。
「『Saint melody』は、大切な人の名前なんだ」
「えっ……」
「『Saint melody』、聖なる音。…──聖音」
「…………」
「美和聖音」
静まり返った部屋の中、一文字一文字を確かめるように、純はその名に呼びかけた。
「聖音。私の、最初で最後の、かけがえのない人」
あずなの顔色は読み取れない。
ただ黙ってこちらを見ている彼女の隣で、純は続ける。
「『Saint meldy』は、彼女への懺悔。そして──」
「…………」
「湖畔さんに、案内したい先があるんだ。来てくれる?」
純が立ち上がると、操り人形を彷彿とする面持ちのあずながあとに続いた。