貴女は私のお人形
第8章 だから世界の色が消えても、
純の憶測は的中していた。
せっかくなら四肢を切り刻んでやれば良かった。呟くと、リュウの顔に謹厳さが帯びたからだ。その前に約束して欲しいことがある。純を見上げていた双眸が、別の場所に移った。醜穢な視線を追うと、なるほど、彼の恋人がこちらを見ていた。
恋人が殺されかけているのに、止めにも入らない。存外に薄情な人形は放っておくことにして、純はリュウに話の続きを促した。
すずめだけは。
血の雨でも降ったように、黒い水溜まりが純の臭覚を苛んでいた。
俺の……姫、だけは……………
男とはしぶとい。あの期に及んで口舌を操れていたリュウは、今振り返っても身体のどこかにゼンマイでも隠れていたのではないかと思う。
綺麗に終わらせてやってくれ。
それが、野原リュウの口にした、この世での最後の言葉だった。
「だから……すずめちゃんを、ドールに……」
一体の少女の人形を眺めて、あずなは茫然と呟いた。
ピンク色の混じった亜麻色の巻き毛を肩にまで伸ばした人形は、ピンク色のドットチュールを重ねたジャンパースカートに身を包んでいた。そして、やはりピンク色のストライプが入った白いブラウスを合わせていて、肩にティーカップ型のポシェットをかけていた。きめ細やかな白磁の頬は生気がない。淡く浮かんだ淡い紅は、おそらくチークだ。
それはあまりに精巧だ。
洋服から覗く首筋や腕、腿は、見たところ、触れればとても柔らかそうだ。撫でれば指先に温度も伝わる、生きた少女同然だ。
人形は、失踪した野原すずめに瓜二つだ。
彼女の身体に、白薔薇のブリザードやらポプリやらが、半分ほど被さっていた。
一面が白い薔薇で埋め尽くされた部屋の中、すずめだけが、さしずめ色を持つ花だ。むせるような芳香が、あずなの正気をおびやかしていた。