貴女は私のお人形
第8章 だから世界の色が消えても、
「うっ……く……」
「…──っ」
純の首は、薄肉すら刷いていないようなのに、柔らかい。そのくせ人間とはあくまで丈夫に出来ているのか。折れるどころか、なかなか手こずる。
しかしながら、確実に、あずなは今、神無月純という神にも等しい人間を、死に追いやろうとしている。
乙愛が一生、口を利かなくなるか?
その前に拘置所送りだ。
最後に、里沙に会えるかな……。
里沙もあずなを軽蔑するか。
寂しくなった。
その時だ。
「…──っ」
手首が、針を刺したように痛んだ。
あずなの手から、ねじったスカーフが滑り落ちる。
途端に、震え上がるような寒気があずなを駆け巡っていった。スカーフも拾い上げられないくらい、握力まで抜け落ちる。
手首が痺れて、腕や肩に、不思議な浮遊感が広がっていく。
たった一瞬の違和感が、全身に差し響くとでも言うのか。
次第に立っていられなくなった。身体ごと白い薔薇に崩れ落ちる。思考に引きずられるようにして、視界が歪む。鼓動がやけに速まるのは、身体が覚えた得体の知れない異変に対する恐怖によるのか、異常な事態の一環か。おかしな毒でも注入された感覚だ。
おかしな……毒?
うっすらと動脈の透けた手首に、ぽつりと赤い点があった。
「ごめん、湖畔さん」
純の声に顔を上げる。すずめの人形が置かれたソファに縋りつきながら、あずなは天使の姿を求めた。