貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
「遅刻ではありませんのぉ?連絡はとれないんですか」
すずめの間伸びした声が、どことなく息差しかけていた緊張感をやわらげた。
「そうですね。携帯電話に確認を──」
澄花が胸ポケットから携帯電話を引き抜くや、タイミングを図ってでもいたように、着信メロディが鳴り出した。
「失礼します。…──お電話有り難うございます。『Saint melody』神無月純のアシスタント、神無月澄花でございます。──はい。え?はい。……そうですか……。かしこまりました。はい、はい。……道ですか?地下一階を真っ直ぐ進まれますと、右手に女湯があるのはお分かりになりましたか?……。はい。え?男湯?いえ、『女神の間』は地下二階のはずでございます。こちらはラウンジ『ブルードール』で……」
澄花は困却しきっていた。
話の内容から察するに、電話の主は六人目の参加者だ。
「その場でお待ち下さいませ。私がお迎えに上がります。湖畔様は、どうか今いらっしゃる場所で待機願います」
澄花は携帯電話を切ると、眉尻を下げた。
「皆様、誠に申し訳ございません。私はお客様をお迎えに向かいますので、少々お待ち願いとうございます」
確かに今の電話の様子では、それが得策だと乙愛は思った。
「彼女のお名前、教えていただけます?」
里沙が問うた。
「はい。湖畔あずな(こはんあずな)様と仰います。西日本からお越しの方で」
「こういう格好をしている宿泊客は、私達だけ?」
「はっきりとは分かりかねます。しかし、おそらく湖畔様は、ナチュラルガーリー寄りのクラシカルなお洋服をお召しかと」
「私が迎えに行って参ります。澄花さんは、司会進行を続けて下さい」
「ですが」
「貸し切りでも、時間が押しては純さんにも申し訳がありません。……でしょう?」
たゆたう澄花を押しきって、里沙は颯爽と席を外した。
「あ。もしもし、お姉様。ちょっとハプニングがあって──はっ?!蝶のリングを家に忘れた?!」
天幕を出て行く里沙の後ろ姿に溜め息をこぼして、乙愛がテーブルに向き直って姿勢を正すと、澄花はまた携帯電話を耳にあてていた。