貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
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歩いても歩いても、永遠に終着点などないような、サーモンピンクの絨毯が靴底をやおら沈める長い廊下の隅に、湖畔あずなはへたり込んだ。
ラウンジ『ブルードール』を目指していたはずなのに、見覚えのある地点に何度も出る。銭湯に、土産物屋。それから八人で貸し切るには広すぎる宴会場や、行き止まり。
迷って迷って、歩き疲れた。
こうも明るい建物にいて、狐に化かされた可能性はない。ないにせよ、そうでも考えなければ、自分が方向音痴ということになる。
進んで認めたくないことだ。
あずなは、非常に見づらく働かない館内案内図を握った片手を投げ出す。
樹脂粘土のウサギをつけたブレスレットが、無音の廊下に音を添えた。
携帯電話は、とうに夜の七時過ぎを示していた。
あずなは、神無月純の熱狂的ファンではない。
しかるに、『乙女の避暑』に参加することは、あずなにとってさして特別な事件ではない。
今日も、小規模のオフ会に顔を出すのと大差ない心意気で、『パペットフォレスト』に乗り込んだ。
規定の参加人数が六人という、『乙女の避暑』に運試しに応募して、運良く参加権を得ただけだ。あの抽選に外れていても、ショックも何もなかっただろう。
今も同じだ。
『乙女の避暑』の開会時間を過ぎても尚、あずなに特別な焦燥はない。
袖を通したのも普段着だ。