貴女は私のお人形
第2章 煌る場所にいるはずで、
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山道の物置小屋を出るや、あずなが悲鳴にも似た声を上げて駆け出した。
「アカミズだ!塩で茹でると美味しいんですよー」
「私には、ただの草に見えるわ」
遅れて追いついた純は、あずなの視線の先を辿った。と同時に拍子抜けした。
重たげなフリルの裾を揺らして、脇目も振らずに飛びついたのが、こんな、小さな葉の集合体。田舎道ならどこにでも見かけられよう葉緑が茂っただけの一角だ。
「あーっ、こっちはイワタバコ!そっかぁ、小川があったもんねぇ……涼しいし、育ちやすいんだわ」
物置小屋でのオリエンテーリングの課題は、むしろ山菜にまつわる出題の方が適していたのではないか。
何せあずなは今しがた、純の持ち歌の穴埋め問題を一つも正解出来なかった。他のチームにフェアでないと気が咎めながらも、見かねて純は、思わず手を出してしまったものだ。
「あ、神無月さん。これね、胃に良いんです。昨日私、食べ過ぎちゃったんで詰みます。ちょっと持っててもらえます?」
ストローバッグを押しつけられた。
鳥や花やらが飾ってあるストローバッグは、かなり重たい。
無邪気なほど気まぐれで、奔放だ。
こうまでくると、いっそ憎めない何かを感じる。
「文月さん、だったかしら」
「はいー?」
「彼女のお洋服、湖畔さんのお手製なの?」
それは些細な興味本位だ。おそらくあずなが山菜に飛びつく以上に、気まぐれなもの。