貴女は私のお人形
第2章 煌る場所にいるはずで、
腕が震える。
胸が落ち着かなくて、頭が上せる。正気などとっくになくしている。
涙が、頬を伝う。
「会いたかった……会いたかった」
ここが現世でなくても良い。
柔らかな少女の肉体から、匂やかな甘い香りがした。
少女のさらさらの雲鬢から、花を彷彿とする匂いがした。
「連れ……てって……」
嗚咽が、止まらない。
少女の温もりは、まるで生きた人間だ。
暗がりの中、純は少女の唇に、キスを求めた。
「純様!」
まやかしから純を引き上げ出したのは、凛と染みるソプラノの声だ。
「え……」
その声は、聞き覚えのない、否、記憶に新しい声だった。
純は、抱き締めていた少女の身体を離した。
少女の顔を確かめる。
違う。
少女は、記憶の中で微笑む彼女とは別人だった。どことなく似ているところがあるだけで、確か、文月乙愛とかいう名前だったか。
「ごめんなさい、私……」
誰にも触れさせまいとしていた。
あのかけがえのない来し方を、他人にちらつかせるなんて、どうかしている。
他人の中に彼女の幻覚を見るなんて、どうかしている。
純はその場に力をなくす。
文月、乙愛。
その名前を心の中でささめくと、今度こそ、純の胸におかしなものがせり上げた。