貴女は私のお人形
第2章 煌る場所にいるはずで、
「じゃあ、私達の親睦に……」
「乾杯!」
「いただきます」
アイスティーのグラスを鳴らして、乙愛はまず、ローズヒップと蜂蜜のお茶を味わう。
「美味しいですわ!」
「ん、このサラダも美味しい。あずなって、きっと良いお嫁さんになるわ」
「はは、里沙のお嫁さんにしてくれる?」
「私はお嫁さんを迎えられるタイプではないから……」
「はいはい。分かってますって。里沙はもっとかわいこちゃんが良いんだよね?迷子になったりしないような」
「迷子は関係ないわ。しないに越したことはないだけよ。さっきだって、あずなと神無月さんを探して歩いていたら、貴女が足許にいたんだもの……吃驚しちゃった」
「お化けがうじゃうじゃいたから腰抜けたのぉっ」
泣きそうな声を上げたあずなの頭を、里沙が軽く撫でてやる。
あずなは取り皿を浮かせたまま、小さくなっている。里沙と目を合わせようとしないで、その様子はまるで純の歌を聴いている時の乙愛だ。
焼き野菜の味に舌鼓を打ちながら、乙愛にお化け屋敷での一件が蘇る。
純達を探していくつめかのオリエンテーリングの地点に至ったところで、乙愛と里沙は二手に分かれた。
乙愛は純を、里沙はあずなを、さして離れていない距離に見付けた。
純様…………。
薄暗がりにいた白い女神は、辛そうだった。
苦しげだった。
神に愛されて生まれたような、何一つ欠如しているものなどなかろう「神無月純」があんな顔をしていたなんて。
あの時、乙愛は夢でも見ていたのではないかと思う。
聖なる音色のようでいて、さしずめ媚薬の声を除けば、乙愛は純を知らなさすぎた。
ドールなど足許にも及ばない、純白の花にも優るあえかな姿を初めて見たのも、僅か一日前のことだ。
『パペットフォレスト』への帰り道、里沙とあずなの後方を、乙愛と純は夕日に包まれて並び歩いた。その間も、乙愛の胸は軋むように辛く痛んだ。
永遠の生き地獄の中、責め苦に喘ぐ天使のように、純は乙愛に泣き縋ってきた。
純の涙が、愛惜に濡れた彼女の声が、乙愛の頭に焼きついて、離れない。
あの美しい女が、乙愛を強く抱き締めた。
おとがいに指先を添えて、キスを、求めた──。