貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
白い花が寄せ植えしてある一角に、女が一人、倒れていた。
憎らしいほど穏やかな寝息を立てる女は、単に眠っているだけか。
澄花は、女の側に膝をつく。
肩に毛先が触れる長さの金髪は、無造作に、女の頬を撫でていた。
切れ長の目許を縁取る長い睫が影を落とす白い頬は、極上の白粉をはたいても、これほどきめ細やかには仕上がらない。
ギリシャ彫刻の女神を彷彿とさせる女の顔は、もはや人間に可能な美を超越していた。
もっとも、とりわけ侠気な装いをした女に、女神という形容詞はやや似つかわしくない。
真っ白なブラウスの立て襟に、白いシャボが咲いている。そして同じく真っ白なフリルが幾重にもあしらわれた燕尾の付いたベストに、同系色のズボン。それらをとりあわせた女は、いっそ異国の騎士を聯想する。
扇に広がる袖口から伸びた手首に、メタルブラックのクロスのブレスレットが巻かれていた。
首元に吊してあるチェーンの先に、小さな小瓶が付いていた。中を満たすのは青い粉末。
美しい。
この森も、沼も、甘い夢を貪る女も、けだし妖精の魔力にでも囚われたのだ。
「…………」
女にやおら寄り添って、澄花は彼女に呼びかけた。