貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
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姫カットの部分を残して、胸にまで伸ばした黒髪を、乙愛は二本のお下げに編んだ。
セーラーカラーのブラウスに、蝶結びの白いリボンと白い苺が裾に刺繍されたプリーツスカート。
フォーマルながら、清涼感ある愛らしさを求めたコーディネートだ。
セーラーカラーに結んだリボンは、スカラップになっている。たくさんのギャザーを寄せた綿レースがあしらわれていた。
プリーツスカートを綺麗なまるいシルエットに仕上げたのは、膝丈パニエ。リボンと苺の模様が入ったチュールレースが、裾に覗く。
首にはカメオのネックレス、大きなリボンが付いた楕円のヘッドドレスを頭につけた。
ピンクベースのメイクを済ませて、身支度はほぼ完成だ。
携帯電話の着信音が鳴ったのは、トランクから本の形をしたポシェットを取り出そうとした時のことだ。
「もしもし」
『乙愛か?』
二日振りに聞く、父、文月敏也(ふづきとしや)の声だった。
「どうしたの?母さんは?」
『もう出掛けた。水曜は早番だったろ』
「そっか」
確かに、母、唯は毎週水曜日、朝早くに家を出る。クリーニング屋にパート勤めをしているのである。
『……楽しいか?』
「えっ、ええ」
『マイナーな歌手の祭りだろ。一週間も、よく夏休みを無駄に出来るな』
「…………」
不可視の毒が、乙愛の携帯電話を握る指に汗をもたらす。
今に始まったわけではない、敏也の心ない自己主張に、乙愛はうずくまりたくなる。