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貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、




『母さんにはまた電話をさせる。ハメを外しすぎるな』


 独善的な科白で乙愛をなぶって、電話は切れた。



 敏也を、乙愛は嫌ってはいない。

 温厚な父親だと、近所からは評判だ。彼が良い意味でも悪い意味でもおおらかなのは、確かなこと。羽振りが良かった時分から、女や酒にも無頓着だった。


 家族を笑わせようと懸命で、昔は乙愛の話も真剣に耳を傾けた。


 彼の常識、ものさしとやらを外れたところでのみ、傲慢、蒙昧を発揮する。



 解らなくて構わない。


 解らないなら解らないなりに、否定しないで欲しかった。

* * * * * * *


 すずめが花壇にくずおれて、白い唇の吐き出す息が切迫したのは、今しがたのことだ。


 リュウは薬を探していた。


 ピンク色のラインストーンがリボン型に敷き詰めてあるサックスカラーの携帯電話に、アリスのレリーフが入ったピンク色の手鏡。同じくアリスのシルエットがポイントになったピンク地に白のドット柄のウォレットに、ケミカルレースで縁取ってあるパンダの半巾。それからパンダの小物入れを開けたものの、付け睫の専用接着剤が収まっていただけだ。



「薬は?!すずめっ……」


 すずめは小刻みに肩を震わせていた。彼女の鈴を転がすような甘い声は痛々しい音を絞り出すだけで、ただでさえ白い頬は青白く透き通りかけていた。


 日射とは関係なかろう汗が、すずめのこめかみに滲む。



 目尻を濡らして胸を掴む実妹を、初めて見たわけではない。


 ただ、リュウはこの発作に慣れていない。

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