テキストサイズ

貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、




「ファ……内、ファスナーの、中……」



 どうりで見つからなかったはずだ。

 リュウは、ティーカップ型のショルダーバッグの内ポケットのファスナーを開けた。


 数種類のタブレットの内服薬が、ところ狭しと入っていた。


 この状態で、これだけの薬を飲みきれるのか。


 当人でなければ疑問をいだくが、すずめ曰く、水があれば流し込めるらしかった。


「姫……」

「み、ず……」


 少し離れた芝生の向こうに、小川が静かな音を立てていた。


* * * * * * *

 いつだったかライブハウスで、名前も知らない少女が「憧れる」とまで称えて目に銀河を瞬かせていた長い金髪は、正直、暑苦しいだけだ。

 結えば少しは楽なのだろうが、そうもいかない。

 コテージをエアコンで極度に冷やして、純はシフォンとチュールを重ねた中に真っ白なブリザードの薔薇が畏まったリボンカチューシャを、頭に飾った。

 愛用の青い粉末の入った小瓶のネックレスを拾い上げて、全身鏡の前に立つ。


 白い女は、まとう狭衣も真っ白だ。

 スクエアカットの首元に、スワロフスキーの逆さ十字が光を添える。パフスリーブだけでは心許ないのではないかと言う澄花の助言に従って、白いレースのアームウォーマーを重ねていた。
 フリルレースと小花のフロッキーチュールが惜しみなくあしらってあるアシンメトリーのロングスカートの脇には、緻密なスリット。覗く色は、純にしては珍しかろう、黒いソフトチュールのパニエだ。

 化粧は、グレーと淡いオレンジでまとめた。



 ともすれば他人と向き合っている感覚が、押し寄せる。


「狂ってる、ありえない」


 澄花は、さっきから乱れたシーツやら散らかった小物やらを片づけながら、きびきび動き回っていた。


「何で私、こんな馬鹿なことやったんだろ」

「そうよね」


 返事も求めなかったのに、にわかに妹の声がした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ