テキストサイズ

貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、



「お姉様は、昔からやんちゃすぎるの」


 澄花の声が純に迫った。同時に腕が巻きついた。華奢なのにまろみのある抱擁は、澄花らしからぬ声音を連れて、発育の乏しい乳房を背筋に押しつける。


「でも私、やんちゃなお姉様は好きよ。そろそろお仕事へ行きましょう?」


 時刻は午後の二時四十五分だ。

 『乙女の避暑』のお茶会は、午後三時に始まる予定だ。

 純は澄花の腕をほどいて、チェストの引き出しを引いた。


 コテージの鍵を取り上げる。



「よろしく、澄花さん」



 ドアの閉まる音を残して、澄花が寝室を出て行った。


 一人になった空間は、いやに広い。



 『パペットフォレスト』の人気区画、パペットゾーンに並んだコテージの内装は、まるで『Saint melody』の世界だ。



 『Saint melody』…………



 この白い眺めに相応しい名だ。


 疲れ果てた。

 中途半端な二度寝の所為で、倦怠感がまとわりついてもいた。


 純はベッドに倒れ込む。





 …──異質なのは、私だけ。



 文月乙愛。また、会わないといけないんだ。





 昨日、人違いから危うく襲いそうになった少女の顔が、頭を掠めた。


 枯れてひりりと疼痛するのは、気力や肉体ではない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ