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貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、


* * * * * * *


 薬を含んだすずめの唇に、キスをした。


「ん、んん……」


 啜った水は、川底の砂利を透かしていた。腹は壊さないだろう。


 リュウの口内からすずめのそれへ、水が移った。


 生温かい川の水は、仄かな甘みを帯びていた。


「足りたかい?」

「大丈、夫……」

「足りなければ、もっと汲んできてやる」

「ううん。側に、いて」


 すずめの手が、リュウの袖口を掴んだ。

 リュウを見上げたすずめの目は、仄かに赤みがかっていた。

 顔色は、心なしか明るい。安静にしていれば、じきに回復する兆しだ。さもなくば、リュウは後追いするしかない。



 リュウはすずめの隣に腰を下ろした。



 五分ほど経過して、すずめに規則正しい呼吸が戻った。



 すずめの横顔を、リュウは盗み見る。

 特別に華やかでもなく、あどけないすずめは、極めて清楚な顔立ちだ。それでいて、彼女は世界一愛嬌がある。
 世界中の可憐なドレスは、可憐なすずめのためだけにある。
 甘ったるく「リュウ様」と呼ぶ鈴を転がすようなソプラノも、抱き締めれば折れそうなくらい小さな、それでいて艶やかな肢体も、リュウは愛おしくてたまらない。

 懐かしそうに、優しくリュウに触れる、すずめの手が大好きだ。

 柔らかなのは見目だけではなく、砂糖菓子を彷彿とする色の良い素肌は、舌を這わせれば極上の果実のような味がする。


 いつだってすずめは低体温だ。
 裸で抱き合っている最中も、うっかり「君の温もりが愛おしい」などというキザな科白を口走ろうものなら、嘘になる。


 しかし、リュウはすずめと一緒にいると、温まれる。

 手と手の指先を絡め合っても、一度としてすずめの体温がリュウを越えたためしはないのに、彼女はすこぶる温かいのだ。

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