貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
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薬を含んだすずめの唇に、キスをした。
「ん、んん……」
啜った水は、川底の砂利を透かしていた。腹は壊さないだろう。
リュウの口内からすずめのそれへ、水が移った。
生温かい川の水は、仄かな甘みを帯びていた。
「足りたかい?」
「大丈、夫……」
「足りなければ、もっと汲んできてやる」
「ううん。側に、いて」
すずめの手が、リュウの袖口を掴んだ。
リュウを見上げたすずめの目は、仄かに赤みがかっていた。
顔色は、心なしか明るい。安静にしていれば、じきに回復する兆しだ。さもなくば、リュウは後追いするしかない。
リュウはすずめの隣に腰を下ろした。
五分ほど経過して、すずめに規則正しい呼吸が戻った。
すずめの横顔を、リュウは盗み見る。
特別に華やかでもなく、あどけないすずめは、極めて清楚な顔立ちだ。それでいて、彼女は世界一愛嬌がある。
世界中の可憐なドレスは、可憐なすずめのためだけにある。
甘ったるく「リュウ様」と呼ぶ鈴を転がすようなソプラノも、抱き締めれば折れそうなくらい小さな、それでいて艶やかな肢体も、リュウは愛おしくてたまらない。
懐かしそうに、優しくリュウに触れる、すずめの手が大好きだ。
柔らかなのは見目だけではなく、砂糖菓子を彷彿とする色の良い素肌は、舌を這わせれば極上の果実のような味がする。
いつだってすずめは低体温だ。
裸で抱き合っている最中も、うっかり「君の温もりが愛おしい」などというキザな科白を口走ろうものなら、嘘になる。
しかし、リュウはすずめと一緒にいると、温まれる。
手と手の指先を絡め合っても、一度としてすずめの体温がリュウを越えたためしはないのに、彼女はすこぶる温かいのだ。