貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
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お茶会は、十五分ほど予定を過ぎたところで始まった。純の到着が遅れたからだ。
「ごめんなさい……気分が、優れなくて。だけどもう大丈夫」
口先とは対照的に、純の顔色は芳しくない。
元々、儚げな存在感の強い彼女だ。こうも覚束ない様子では、乙愛の方が気が気でなくなる。
澄花もマイクを握って開会の辞を述べながら、純を気にしている風だ。一昨日、昨日と、司会進行をそつなくこなしてきた彼女が、現時点で二度も噛んだ。
「尚、本日夜は、純のスペシャルライブを予定しております。このお茶会の場で、曲目やトークにおけるリクエストを下さるお嬢様がおいででしたら、本人か私に、一声かけて下さいませ。もしかすれば、お応えさせていただきますかも知れません。それでは、皆様どうぞお茶やお菓子とご歓談を、心ゆくまでお楽しみ下さい」
どうにか開会の挨拶を締めた澄花が、マイクを下ろした。
白いクロスに目を瞠るようなフラワーアレジメントが色を散らす。繊細にデザインされた茶器は、一つ一つ絵柄や色が異なるのに、八人分の全てが揃って初めて一枚の絵画が完成している風である。芸術とも呼べよう茶席には、色とりどりの菓子やオードブル。甘く可憐なマカロンや、こんがりと焼けたスコーンは、アクセサリーと見まがうほどの見目と匂いで乙愛を誘う。
何度目かの席替えで、乙愛は純と隣になった。
夢にも見なかった、つい数日前までは実在すら疑わしかった純の隣。
いざ彼女と肩も触れ合いそうな距離になると、乙愛の呼吸は窮屈に詰まる。必要以上に鼓動が騒ぐ。ただでさえ身体が火照る炎天下、余計な熱まで押し寄せる。
薔薇園は柵のずっと向こう側にあるのに、とても妖しい、芳しい匂いが鼻を掠めた。
純のまとう雰囲気が、乙愛を悩ませるからだ。