貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
もっとも純は、乙愛のもう一方の隣席にいる里沙とばかり話している。
純の声がかかったところで、けだし乙愛に満足な受け答えは出来まい。それでも目くらい合わせたい。会釈くらい。…………
蜂蜜を落とした苺のミルクティーを味わいながら、乙愛は純を盗み見る。
緩くウェーブのかかった長い金髪は陽の光を吸い込んだ潤沢を放って、天を渡る清流のようにつややかだ。白いドレスが白い彼女に生来備わっていた狭衣のごとく馴染みきっている。思いの外、化粧は薄い。玲瓏な目許や桜の花びらを浮かべた頬は、禀性であるということか。
首筋も、肩も、腕も、指先も、完膚なきまでに隙がない。
お化け屋敷での一件が、無言で乙愛を煩わす。
切迫した純の美声。この世の果ての更に向こう、晦冥より暗い深淵にまみえでもしたような、純の瞳。
とてつもなく切なくなった。抱擁に落ちた感覚が、乙愛の五感、否、もっと深い本質に潜む心魂から離れない。
純を想い、彼女の声に感じ入って、その姿を目にすると、以前にも増して胸が締まる。鼓動が規則をなくしてゆく。
乙愛の想いは厄介だろうか。
純は乙愛を、避けているのか?──……
「では、妹の里乃さんは、里沙さんとは随分違った雰囲気なのね?」
「ええ、神無月さんみたいなゴシックロリィタ。黒が多いから、少し違うかも知れないけれど」
「黒がお好きなの?里沙さんも、黒い皇子様よね。姉妹揃ってお洋服の好みが似ていると、話も合うでしょう」
「話が合うと言うよりは、収納場所の取り合いになって、衣替えの時期は喧嘩になります。二人暮らしなのに、服ばかりで部屋が狭いわ」
「ウチと同じね。姉妹二人暮らし。もっとも、澄花は雑誌や本で収納場所を攻めてくるわ」
「良いじゃないですか。神無月さん達の家、大きそう」
「全然。……乙愛さんは、一人っ子だったわよね?」
突然、世にも美しい声が乙愛を呼んだ。