貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
「えっ?!!!」
「あっ、えっ……と……何となく、ね。そんな気が。そんな気がしただけ」
「いえ、はい。一人っ子です……」
どうやら純は、乙愛の過剰な驚きを、姉妹事情が的中した所以だと誤解したらしい。
乙愛は、自分の家族構成を、すずめや里沙に既に明かしている。従って乙愛にしてみれば、人伝に純の耳に入っていてもおかしくない。もとより端から山勘でも、別段驚かなかったろう。
肩が自ずと跳ねたのは、高峯の花、雲の上の存在である純が、話しかけてくれたからだ。
「当たったようね」
ソーサーごとカップを置いて、純がたわやかな笑みをこぼした。
「貴女みたいに可愛らしいお嬢様なら、ご両親はさぞ大切になさってるでしょう」
綺麗であえかな純の声が、乙愛のために言葉を紡ぐ。
乙愛は、まるで無垢な魂をそのまま映し出したような、たとしえない黒曜石の眼差しに囚われてゆく。
純の言葉を聞き取る余裕もなくなる。
愛おしい、どんな美辞麗句も色褪せよう純の瞳に、文字通り乙愛は吸い込まれそうになる。
とんでもなく格好良く、極上に美しい女性。その面差しは心なしか物憂げで、そして慈愛に満ちていた。
美しいものだけに触れてきたような、美しい純の指先が、乙愛の髪に触れた。
「澄花が妹なら、乙愛はお人形にしてみたいわ」
法悦した乙愛の耳は、挙げ句、聞き違いまでする始末になった。
座席チェンジの時間を告げる、澄花の声が聞こえてきた。