貴女は私のお人形
第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、
「神無月殿は、乙嬢の地味顔が物珍しかったのだろうか」
「リュウ様!」
妹が感動に浸っているのに、この兄は、とんだ水を差すものだ。
「そうであろう。神無月殿は庶民の分際で、生意気にも顔だけは派手だ。しかし、乙嬢は化粧を取れば、おそらくのっぺらぼうになる。人が他人に自分にないものを求めるように、神無月殿は、自分とは異なる地味な娘に興味を示したのだ」
「うぅ……。すずめだってのっぽらぼうよぉ」
「すずめは、清楚というのだ。野に咲く花のように純真無垢だが、ただ原っぱに咲いていてはもったいない……特別な花だ」
「特別?」
「野生のミツバチに奪われてなるものか」
「っ……」
あ、と声のこぼれかけた唇が、慣れ親しんだ柔らかみに封じられた。
すずめの視界の片隅に、数時間ぶりのコテージが触れる。いつの間にか帰っていたのだ。
途端にすずめの身体から、力が抜けた。
目眩がして立てなくなっても、面倒見の良いこの恋人は、妹を部屋まで運ぶだろう。
これで三度目だ。
一度目は、お茶会へ向かう途中の、花壇で見た光景だ。
二度目は、和やかなはずの茶席で見たじゃれ合い。
そして今、西陽の沈んだ『パペットゾーン』の一角に、またしても純は見るべきでなかったものを見ている。
下劣な犬が汚しているのは、可憐な小鳥。
苺ミルクの混じった亜麻色の髪だけが色を放つ、全身黒ずくめの華美な男が、薄紅色のドレスをまとった少女を翻弄している。