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貴女は私のお人形

第3章 貴女をあたしは知らなさすぎて、




「リュウ様、愛してる……愛してるっ。すず姫はリュウ様のものよ……ん、ああっ……」


 白いコテージの軒先で、熱と吐息を交わす兄妹。
 男の手は少女のスカートをまさぐっていた。ドロワーズの裾から伸びたみずみずしい脚が、リュウの股間に割り入って、すずめの腕は彼の首に巻きついていた。
 壁際にすずめが背を預けて、リュウが彼女を覆い隠している。それでも、落ち着かなく戦慄するすずめの手足や、溢れんばかりの劣情を語った涙は、遠目でも見て取れる。



 女を賞翫する男など、おぞましいだけだ。

 アダムとイヴの神話を蒙昧させられた女が、男の先導に恍惚する。それほど哀れな悲劇はあるまい。



「お姉様」


 澄花の手が、純の袖をやおら引いた。


「あちらの道に行きましょう」

「けど」

「遠回りでも、時間はあるわ。……お姉様?」





 気持ち悪い。

 ひとたび純を襲った拒絶反応は、自律神経さえおびやかす。


 どのみち純の足は硬直していた。グロテスクな生物が気管を抉り潜ってゆく悪感に、胸を押さえる。



 澄花の肩に顔を埋めた。

 彼女の腕に、縋りつく。



 救われるはずない。


 分かっていながら、純は妹の名前を呼ぶ。



 悲しすぎる光景が、純の目蓋の裏を過ぎった。


 世にも残酷な拷問を受けた。誤って生き長らえた。


 地獄に堕ちたあの日の記憶が、蘇る。



 捨ててしまいたいものが山ほどあった。
 何もかも滅茶苦茶にしたかった。

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